歴史民俗資料館:端野町のカタクリ

2011年4月20日

 

端野町のカタクリ

 

 春の端野町には、道東ではあまり見られない、カタクリの群落がひっそりと生育しています。
 資料館ではその希少なカタクリを保護するため、1990年から大学に依頼し、継続して調査を行ってきました。
 その結果、周辺の群落から孤立した端野のカタクリは、子孫を残すために思いがけない努力をしていることがわかりました。
 全国的にもカタクリの群落は開発や盗掘によって減少し、北海道ではレッドリストの留意種にも指定されています。端野町のカタクリの特性と、取り組みをご紹介します。
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1.カタクリ(Erythronium Japonicum)とは

 カタクリは早春の雑木林を彩る、ユリ科の多年草です。高さは10~15cmになり、春早くに2枚葉の間から1本のピンク色に近い色の花を咲かせます。
 万葉集の和歌やカタクリ粉で象徴されるように、カタクリは古くから日本人の生活と深い関わりを持ってきました。


 

2.カタクリの分布

  日本にはただ1種類だけですが、ユーラシア大陸には、ヨーロッパに1種、コーカサスに1種、シベリアに1種と合計4種類が知られています。一方、北アメリカ大陸には、東部に6種、西部には10数種、世界で24種が知られています。
 日本ではおもに北海道と本州に分布し、四国ではわずかに分布しています。またクナシリ島、サハリン、ロシア沿海地方、中国東北部に分布します。北海道では道南、道央を中心に分布し、各種の調査では道東地方にはわずかに分布するだけです。特に根室地方にはほとんど分布しないと思われます。
 したがって北海道でも道東地方は、カタクリの分布の東の限界に近いといえます。
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3.カタクリの生活史

■カタクリの成長

 カタクリは雑木林の林床に生育し、成熟するまでには長い年月がかかります。種子から成長し、7、8年をへてやっと開花すると、その後は何年にもわたって開花・結実を繰り返します。その寿命は少なくても15年、長いもので20年程度は生きていると思われます。
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image005 ■昆虫に頼る受粉

 本州での調査では、カタクリは典型的な他家受粉型の虫媒花です。春先早くにカタクリを訪れる昆虫はハナバチの仲間がもっとも多く、その他にもヒメギフチョウ、アブの仲間も見られます。
 これらの昆虫はカタクリの花に蜜を吸いに訪れ、そのときに雄蕊に触れて花粉を体につけ、ほかのカタクリに運んでいきます。


 

■アリが運ぶ種子

 熟したカタクリの種子は、長径が2mmほどの楕円形で、黄褐色をしています。そしてその一方の端にはエライオソームというものがついています。
 これにはアリを引きつける物質が含まれているため、種子が地上に落ちると、アリが短時間のうちに運び去り、効果的に分散させてくれます。
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4.端野町のカタクリ調査

 端野町のカタクリは分布限界に孤立した状態にあり、その保護のために1990年から専修大学北海道短期大学造園林学科の先生方に依頼して、各種の調査・実験を行ってきました。
 なかでも北海道におけるカタクリの分布調査や、端野町の個体群がどう推移するかという動態調査、笹刈りによる増殖実験、林相や他の植物群落調査、人工授粉実験などを行い、他の地域と比較して端野町のカタクリの特性を調べています。
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5.端野町のカタクリの特性

 以上の調査の結果、端野町のカタクリ個体群は、道内の他地域のものと比べて個体密度が低く、大きさもやや小さい傾向にあることがわかりました。また、自然状態で果実を生産する個体の割合が、他の地域より高い傾向にあるようでした。このことから、人工的に自家授粉させる実験を行ったところ、端野町では約半分の個体で自らの花粉で果実ができ、自家和合性を持っていることが明らかになりました。
 従来の本州における調査では、カタクリは主に他個体からの花粉でなければ結果(果実を生産し、種子を作る)しない、他殖型の典型とされてきました。
 しかし、端野町のカタクリは本州あるいは他の北海道のカタクリと異なる特性を獲得している可能性がわかってきました。
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表 強制自家受粉の結果

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調査地 結果の程度
新十津川町 ×
旭川市
端野町
z:結果数が交配数の
◎6割以上
△3割以下
×無し


 

6.カタクリとその生育地の保全のために

 カタクリは日本各地に見られる植物でしたが、開発や盗掘によって群落が減少しており、保護のための運動が各地で行われています。身近な植物だったカタクリも開発の進展とともに珍しい植物に変わり、今は保護が求められているのです。
 カタクリは典型的な春植物であり、明るい二次林の中に生活しています。しかし林を自然状態に放置しておくと、薄暗い森に変化していきます。こうした森の中では陽光不足となり、カタクリは生活しにくくなります。カタクリを守るためには、生育地である二次林の状態を維持するために、適切な管理が必要になってきます。端野町のカタクリは分布の東の限界付近に位置し、しかも周辺の開発の結果、孤立しています。
 分布限界の動植物は、分布の中心地のものより厳しい環境に耐えていると思われます。また孤立化が原因で、本州や道内の他地域とは異なった特性を獲得した可能性が考えられます。それだけに一層大切に保護されなければならないのです。
 なお、カタクリは北海道版レッドリスト(北海道の希少野生生物リスト)の留意種にもなっています。
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7.カタクリの森

 端野町でカタクリが生育する‘カタクリの森’は周辺をカラマツ人工林に囲まれた、面積約5haの落葉広葉樹二次林です。この森の尾根から斜面中部には、最大で太さ40cm程度のミズナラ、シナノキやイタヤカエデにハリギリやアサダが混生し、斜面下部から沢沿いにはヤチダモやハルニレも生育します。また一部には、トドマツやカラマツの人工林も分布しています。
 この森には300種を越える植物が生育していますが、林床植物が豊富なことが特徴です。適度に湿り気のある斜面下部から沢沿いには特に多くの植物が生育し、春先にはカタクリの他にも、アズマイチゲ、ニリンソウ、エゾエンゴサクやオオバナノエンレイソウなどが開花します。初夏にはオオハナウド、クルマユリやオオウバユリが、また秋にはアキノキリンソウやエゾヤマハギが開花します。晩秋にはイタヤカエデの黄葉、ハウチワカエデやツタウルシの紅葉に彩られ、四季折々に異なった姿を見せます。
 身近な里山での大規模な人工林や農地の造成が進められてきた北海道、特に道東部にあっては、開拓以前の植物群落の姿がまとまって残されている貴重な森なのです。
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8.保護の取り組み

 端野町のカタクリの特性を理解してもらい、みんなで保護を進めるためにも、講演会と観察会などを行ってきました。
 2000年には調査を依頼している専修短大の俵浩三、石川幸男、本多和茂の各先生を講師に講演会と観察会を開催しました。また2001年、2002年には、カタクリを始めとした林床植物を中心に、植物の種の生活の仕方を永年研究され、様々な業績を発表されている京都大学名誉教授の河野昭一先生にご講演をしていだたき、本多先生の実験結果も発表されました。
 さらに端野自然愛好会を始めとするボランティアの方たちによって、笹刈りとゴミの収拾も行っています。
 2004年8月には「たんのカタクリと森の会」が結成され、用地取得のための寄付活動や保護のための様々な活動を行っています。
 分布の限界近くで懸命に生活しているカタクリと、その生育地である、残り少なくなった落葉広葉樹林を保護する仲間の輪が、徐々に広がっています。
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お問い合わせ

端野町歴史民俗資料館
電話:0157-56-2560